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浦和地方裁判所 昭和58年(行ウ)19号 判決

原告

学校法人日本大学

右代表者理事長

柴田勝治

右訴訟代理人

辻誠

押切徳次郎

河合怜

富永赳夫

被告

所沢市中富南部特定土地区画整理組合

右代表者理事長

鈴木十三雄

右訴訟代理人

中井眞一郎

主文

被告が原告に対し昭和五八年九月二〇日付けでした仮換地指定処分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  原告

主文同旨の判決

二  被告

「1 原告の請求を棄却する。2 訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第二  当事者の主張〈以下、省略〉

理由

一原告が、私立学校法に基づく学校法人で、本件地区の区域内に従前地(登記簿上の地積一三万七六七八平方メートル、約四万二〇〇〇坪)を所有する被告の組合員であること、被告が知事が都市計画法に基づいて決定した本件事業(所沢都市計画中富南部土地区画整理事業)の施行者として、法に基づき設立された土地区画整理組合(組合員数が一〇〇名をこえるため、法三六条により総代会を設けている。)であること、被告が、昭和五八年九月二〇日従前地について、原告主張のとおりの土地一一万五九七六平方メートルを仮換地として指定する旨の処分をなし、これを原告に通知したこと(本件仮換地指定処分)は、当事者間に争いがない。

二原告は、本件仮換地指定処分が、都市計画に適合しない、無減歩の合意に反する、違法なる事業計画変更に基づいてなされた、還元保留地の設定による減歩に因る、原告にとくに不利益な差別的処分である、との五点を挙げてその違法性を主張するが、ここでは、まず、の本件事業計画変更の違法性の有無について検討することとする。

1 前記一の当事者間に争いがない事実、〈証拠〉を総合すれば、次の事実(この事実中には、当事者間に争いのない事実もすくなくないが、この点は、争いのない事実と甲乙各号証の記載が完全に符合する。)が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  首都圏三〇キロメートル地域に属する所沢市は、近年に至つて近郊住宅都市への急速な転換を迫られつつあるが、同市の北東部に位置し、大字中富字道傍の全部、同字武野原同字北新田、大字下新井字武蔵野、大字南永井字大岾の各一部により構成される本件地区(東西約一二〇〇メートル、南北約五〇〇メートル、地積約58.6ヘクタール)は、その大半が畑(その約三分の一は遊休地)及び雑木林によつて占められ、昭和四五年八月二五日には都市計画法上の市街化調整区域に指定されたことから市街化が抑制されていた。このため、本件地区の開発整備を期待する地権者の一部は、昭和四五年一一月中富南部一部開発地権者協議会(会長は鈴木十三雄)を結成して、県及び所沢市に対し、本件地区の市街化区域編入を働きかけるに至つた。

かくするうちに、市長は、昭和五一年八月ころ本件地区に土地区画整理事業を施行して大学を誘致し、学園を中心とした住居区域を開発する構想、いわゆる学園住区構想を提唱した。これに呼応して、本件地区の地権者のうち鈴木十三雄ら二一名は、市長の右学園住区構想の推進運動を展開するため、昭和五一年八月二六日準備委員会を結成し、その事業目的に、「市長主唱の学園住区構想の調査、検討」並びに「土地区画整理組合設立認可申請手続」を掲げて、積極的に大学誘致運動と土地区画整理組合設立準備を展開した。

(二)  日本新都市開発は、都市開発事業を目的とする会社であるが、早くから本件地区の開発に着目し、本件地区内の民有地の約二分の一を買収して大口地権者となり、デベロッパーとしての知識と経験を生かして地元地権者らの前記開発推進運動の指導的役割を果たしてきた。

一方、原告は、東京都練馬区江古田に芸術学部を設置しているが、その敷地面積は二万四二二六平方メートル(七三二七坪)にすぎず、甚だ狭隘で、しかも借地であることから、予てより首都圏の地域内に五万坪前後の用地を取得して、そこに芸術学部の大部分を移転する計画を進めていた。そのような原告のもとに、昭和五二年二月ころ日本新都市開発から、本件地区への誘致の申し込みがなされた。原告は、日本新都市開発が、本件地区内に大学用地として四万二〇〇〇坪を確保することを約したので、昭和五二年七月八日開催の理事会で、芸術学部の本件地区への進出を決定した。

(三)  その後、原告と日本新都市開発との間に、準備委員会を混じえて、原告の本件地区進出の条件について話し合いが行われた結果、昭和五二年一二月二六日市長立会の下に、原告(甲)、準備委員会(乙)、日本新都市開発(丙)の三者間に大要次のような内容の合意(三者合意)が成立した。

甲は本件地区内に実測で四万二〇〇〇坪の土地を確保し、芸術学部を開校する。

甲の右土地確保の方法は、本件地区の地権者全員がその所有地の一部を拠出して原告に譲渡する方法によるものとするが、甲が本件事業の準備段階から地権者としてこれに参加することを可能にするため、丙が右地権者らに代つて丙所有の土地四万二〇〇〇坪を国土利用計画法の手続を経て甲に譲渡する。右譲渡に関しては別に協定書を作成する。

甲は乙が設立中の組合が設立されたときは、その組合員となる。

乙は、甲が右により取得する四万二〇〇〇坪の土地を集合換地する。

甲は、事業分担金として、その所有地一坪当たり一万五〇〇〇円、総額六億三〇〇〇万円を乙が設立する組合に納入する。

乙は、甲が昭和五五年度までに芸術学部を開校できるよう土地区画整理事業を推進する。

乙は、その設立する組合に本件合意を承継させるものとする。

そして、昭和五三年三月二七日三者合意に基づいて、原告と日本新都市開発との間に、同社が本件地区内に所有する土地一三万八八四三平方メートル(約四万二〇〇〇坪)を総額二四億七八〇〇万円(坪当たり五万九〇〇〇円)で原告に売却する旨の売買契約が締結された。右約定にかかる売買代金は、昭和五六年五月二一日までには完済され、また、右売買対象地のうちの農地については、すべて農地法所定の所有権移転に必要な手続を了した。

(四)  一方、昭和五三年四月一〇日には、準備委員会と日本新都市開発との間で「協定書」と題する書面がとり交されたが、同書面中には、右両者は、本件地区に土地区画整理事業を遂行することにより学園住区構想を実現し、あわせて地域社会の振興、発展に寄与することを目的として相互に協力すること、準備委員会は、本件地区の土地区画整理事業の遂行に係る一切の業務を日本新都市開発に委託すること、準備委員会は、日本新都市開発が原告に譲渡した土地のうち、同社以外の本件地区の地権者が本来拠出すべきであつた分については、本件地区の土地区画整理事業を遂行する中で、右譲渡代金(前記のとおり坪当たり五万九〇〇〇円)と等価で同社が還元すること、などが記載されている。

(五)  右のように、本件地区の土地区画整理事業施行の計画が具体化するのと併行して、一部の地権者らが期待していた本件地区の市街化区域編入が実現し、昭和五四年四月二四日知事によりその旨の告示がなされた。次いで、昭和五五年九月二四日知事は、「所沢都市計画中富南部土地区画整理事業」(本件事業)を決定、告示し、これと同時に所沢市は、本件地区を大都市地域における住宅地等の供給の促進に関する特別措置法に基づいて「所沢都市計画土地区画整理促進区域」とする決定をし、これを告示した。

(六)  こうして、本件事業の施行準備が本格化してきたが、準備委員会は、昭和五五年に「所沢都市計面事業中富南部特定土地区画整理事業基本計画(概要)」と題する書面(以下、計画概要書という。)を作成した。これは、本件地区につき土地区画整理事業を施行する主体としての土地区画整理組合が設立された場合において、その運営の基本方針をまとめたもので、これによると、まず、本件地区の宅地整備基本方針は、「所沢市の基本施策である“豊かな市民文化を育てる都市”に呼応すべく、所沢市が誘致した日大芸術学部を含む新市街地、“学園住区”の実現」にあるとされる。右にいう「学園住区」概要は、「施行地区面積約58.6ヘクタールのうち大学用地(日大芸術学部)が約13.9ヘクタール……を占めており、計画昼間人口と計画居住入口がほぼ同じ約六〇〇〇人の大学と住宅地との相互共存を目指(す)」としたうえ、「異種機能である大学と住区を互いに阻害させることなく相互止揚させることが本計画の中心課題である。」としている。

(七)  ところで、準備委員会が、本件事業の施行の具体的計画を策定するに当たつては、前述のような経緯から、換地の基本方針として維持すべき事項が二つあつた。その一つは、原告に対しては、換地の結果として、従前と同様四万二〇〇〇坪の所有面積を確保する(すなわち、減歩をしない。)ということであり、もう一つは、日本新都市開発が、地元地権者のために土地を立て替えて原告に拠出した所有地分は、本件事業遂行の中で同社に還元するということであつた。こうした基本方針を実現する方法として、準備委員会は、第一次、第二次事業計画案においては、いずれも日本新都市開発が原告に譲渡した土地約四万二〇〇〇坪を依然として所有しているものと仮定し、原告用地は保留地処分の型で生み出すか(第一次案)、又は創設換地とする(第二次案)との計画をたてたが、第三次事業計画案では、実態に即して原告を当初から地権者として取り扱う方法を採用するに至つた。

右第三次事業計画案によると、本件事業における平均減歩率は22.23パーセント(原告を除き日本新都市開発を含む地権者全体としては三〇パーセント)と計算されているが、前述のとおり日本新都市開発に対し、同社が地元地権者のために立て替え提供した分を還元するという方針を実現するためには、同社に保留地予定地積四万八七八〇平方メートルのうち四万二七九三平方メートルを「還元保留地」として処分するほか、同社が現に所有している土地約三万三〇〇〇坪に対する減歩率を三パーセントに留める必要があつたことから、同社を除く地元地権者らの平均減歩率は40.14パーセントの高率となつた(この減歩率は第一次、第二次事業計画案においても同じ)。

(八)  準備委員会は、右第三次事業計画案に若干の手直しを施して本件事業の事業計画を決定し、定款を定め、本件地区の地権者一二四名の約八五パーセントに当たる者の同意を得て(原告もこれに同意した。)、知事に対し被告組合設立の認可の申請をなし、知事は昭和五六年二月一三日これを認可した。

右認可にかかる被告組合の事業計画の概要をみると、まず、本件事業の基本的目的は、「所沢市の基本施策である豊かな市民文化を育てる都市づくりの一環として所沢市が誘致した日大芸術学部を含む学園住区の実現」にあるとして、前記計画概要書の表現をそのまま踏襲している。そして、換地設計の方針は、「学園住区構想に基づき、大学は地区の北東部に配置し、中央部南側にセンター用地(商業ゾーン)、その外側に住宅用地を配置する。住宅用地は地区中央部隣接ゾーンに集合住宅、その外側に低層住宅を計画し、センターゾーンで学園と住区の共存したコミュニティーの発生を促すよう計画する。」ものとされる。一方、本件事業施行後の本件地区内の土地の用途別構成は、公共用地12万0538.06平方メートル(内訳 道路9万4649.01平方メートル、公園1万8346.15平方メートル、その他7542.90平方メートル)、宅地51万6976.46平方メートル(内訳 大学用地一三万八八四三平方メートル、大学用地以外の宅地27万8133.46平方メートル)、保留地4万8780平方メートルであり(減歩率は前記のとおり)、右事業に要する費用四七億円についての資金計画は、国庫負担金又は補助金七億六二〇〇万円、県費三億八一〇〇万円、保留地処分金二七億二七〇〇万円、原告からの特別の出捐金六億三〇〇〇万円とされている。

一方、被告組合の定款は、事業費の分担、組合の組織及び運営方法等についての定めをおくとともに、その第九章に「換地処分」という見出しの章をおき、同章七四条に、「この組合は、法九五条の規定による特別宅地については、位置、面積及び利用状況を考慮して換地を定める。但し、換地の組合せができないときは、この限りでない。前項の規定により特別宅地として措置した宅地の清算については、第六八条の規定を適用する。この組合は法第九五条第一項第六号の規定による宅地については、同条第六項の規定により措置することができる。」という規定を設けたうえで、七五条で、「特別宅地に準ずる宅地の換地」という見出しのもとに、「この組合は、学校法人日本大学が所有している宅地に対しては前条の規定を適用することができる。」と定めている。右定款七五条の規定の文理は必ずしも明瞭ではないが、その趣旨とするところは、組合は原告所有地の換地については、その位置、面積等に関し特別の考慮を払うことができるというにあると解される。

(九)  このようにして、被告組合は設立され、本件事業の施行をみるに至つたが、本件地区の地権者の約一五パーセントの者は、本件事業そのものに強硬に反対し、県知事に対して意見書を提出するなどしていた。これら地権者の反対理由の最たるものは、被告が原告所有地については減歩をしないとの換地方針をとつているため、その影響を受けて他の地権者の減歩率が従前所沢市内の地区について施行された区画整理事業においては例をみない41.04パーセントもの高率になつている、という点にあつた。また、被告の定款、事業計画に一旦は同意した地権者らのうちの一部の者も、前記のとおり本件地区の市街化区域編入が実現したことなどから、事業計画に示された減歩率に不満を示すようになつた。このため被告は、本件事業の円滑な推進を図るためには、前記の換地の基本方針を修正して、原告所有地についても平均減歩率による減歩をなし(その代りに原告から受けることを予定していた前記出捐を辞退する。)、日本新都市開発に対する立替地の還元は、同社が原告に売却した約四万二〇〇〇坪の二分の一の地積に対する換地相当面積に減歩することとして、原告、日本新都市開発の双方に対し、右方針変更についての同意を求めた。しかしながら、原告は被告の右要請を容れず、その後再三にわたる被告の懇請に対してもその態度を変えなかつた。

(一〇)  被告は、昭和五六会計年度において、国庫から六一〇〇万円の補助金の支給を受けたが、本件事業は、その施行に不満を抱く地権者らの反対に遭つて進展せず、挫折の止むなきに至つた。このため、被告組合は、右支給を受けた補助金のうち五一〇〇万円を国庫に返納せざるを得なくなつた。そして、昭和五七会計年度の補助金交付申請の期限である昭和五六年一一月に至つても、前記のような被告組合の要請に対して原告からの前向きの回答が得られなかつたため、被告は、昭和五六年一一月一六日に第一回総代会を開催し(総代二〇名のうち一五名が出席)、席上理事長の鈴木十三雄が、前記換地方針を修正する考えであることを報告し、総代の理解を求めるとともに、仮に右修正につき原告の同意が得られないとしても、被告組合としては、従前の換地方針を修正して本件事業を施行する覚悟であることを表明した。次いで、被告は、昭和五六年一二月一四日第二回総代会を開き、出席総代一七名全員の一致により、原告所有地について実質16.46パーセントの減歩(坪数にして六九一七坪に相当)をすること、日本新都市開発が原告に売却した土地四万二〇〇〇坪のうち二万一〇〇〇坪を、同社が他の地権者のために立替え提供したものとみなし、右みなし立替分についてのみ、本件事業の施行により同社に還元すること等を議決した。なお、右の席上理事長から、被告の前記減歩要請に対し原告が拒否回答を寄せてきた旨の報告がなされた。さらに、被告は、同月一九日第三回総代会を開き、出席総代一九名全員の一致により、第二回総代会の議決どおりの原告用地の減歩と保留地の増加を骨子とする事業計画の変更の議決をした。

(一一)  被告は、右第三回総代会の決議をもつて事業計画を変更し、右変更につき昭和五七年三月二五日県知事の認可を得た。右変更後の事業計画によると、本件事業施行後の本件地区の土地の用途別構成は、公共用地7万2930.47平方メートル、宅地39万5187.92平方メートル、保留地六万九四二二平方メートルとされ、変更前のそれに比して宅地が減少(保留地が増加)しているが、その最大の要因は、右のように原告所有地に対しても減歩をしたことによる。次いで被告は、前記のとおり、昭和五八年九月二〇日原告所有の従前地につき本件仮換地指定処分をしたが、右処分により仮換地とされた土地の地積は一一万五九七六平方メートルであつて、これは従前地の実測面積一三万八八四三平方メートルの16.46パーセント減となつている。

2  右認定事実によれば、本件仮換地指定処分は、変更後の事業計画に基づくものであることが明らかであるから、その違法性如何は、右事業計画の変更が適法であるか否かにかかつているというべきである。

ところで、土地区画整理事業における事業計画は、施行地区、設計の概要、事業施行期間及び資金計画など当該土地区画整理事業の基礎的事項を定めるものであつて、定款とともに土地区画整理事業の指針となるものである。そして、土地区画整理事業は、土地及びその土地上の建物等について権利を有している者に影響を及ぼすものであるから、法は、その指針たる事業計画の決定にあたつては、利害関係者の意見の反映を図るなど、事業計画が適正に定められるよう慎重な手続を規定している。これを本件のような組合を施行者とする土地区画整理事業についてみると、まず、組合設立の認可を申請しようとする者は、事業計画について、施行地区となるべき区域内の宅地について所有権を有するすべての者及びその区域内の宅地について借地権を有するすべての者のそれぞれ三分の二以上の同意を得なければならず、この場合においては、同意した者が所有するその区域内の宅地の地積と同意した者が有する借地権の目的となつているその区域内の宅地の地積との合計が、その区域内の土地の総地積と借地権の目的となつている宅地の総地積との合計の三分の二以上でなければならない(一八条)。右同意があると、はじめて都道府県知事に組合設立の認可を申請することになるが、その申請書には事業計画を添付することを要し、申請を受けた知事は、施行地区となるべき区域を管轄する市町村長に当該事業計画を二週間公衆の縦覧に供させ(二〇条一項)、利害関係者(所有者、借地権者に限られない。)に当該事業に対する意見を述べる機会(同条二項参照)を与えることが義務づけられている。そして、利害関係者の意見書が提出された場合には、都道府県知事は、その内容を審査し、当該意見書に係る意見を採択すべきであると認めるときは、組合設立の認可を申請した者に対し、事業計画に必要な修正を加えるべきことを命じなければならないのである(二〇条三項)。

このような手続を経て定められた事業計画は、組合が都道府県知事の認可を得て設立された後においてこれを変更しようとする場合は、総会の議決(法三一条二号、総代会が設けられている場合は、政令で定める重要な事項を除き、総代会の議決がこれに代る(三六条一項、三項、二四条二項)。)を経て、都道府県知事の認可を得るべきものとされている(三九条一項)のであるが、事業計画が右のように慎重な利害関係者の権利保護のための手続を踏んで定められるものである以上、その変更が無制限に許されるものと解すべきでなく、少なくとも、当該事業計画の根幹をなす事項についての変更は原則として許されず、また、利害関係者(とくに組合員)の一部に新たに不利益を課すような変更は、従前の事業計画の遂行が当該利害関係者に不当な利益をもたらすものであるためこれを是正する場合、組合設立後の事情変更により従前の事業計画によつては事業の適正な遂行が困難になる場合等合理的な理由がない限り、当該利害関係者の同意なくしては許されないと解すべきである。

これを本件についてみると、前記認定事実によれば、本件事業計画変更の主眼点の一つが原告所有地につき無減歩の方針を改めるというにあつたことは明らかであり、それも一気に14.64パーセント(坪数にして六九一七坪)もの減歩をなすという内容は原告にとつて著しい不利益を課すものと評すべきである。しかしながら、本件事業は、当初から大学誘致を前提とした「学園住区構想」の実現を基本目的とし、これに呼応して本件地区に芸術学部を設置することになつた原告に対しては、他の地権者の従前地に対する換地とは別枠で四万二〇〇〇坪の換地を確保することを事業計画の基本方針の一としてきたことが明らかであり、しかも、右のような本件事業における原告の特殊な地位は、単に被告組合設立前における前記認定の各種私的合意上のものにとどまらず、本件地区全地権者の約八五パーセントの同意を得た被告組合の定款(七五条)及び事業計画上保証されたものであつて、これを地元地権者から選出された総代を構成員とする総代会の議決により変更することは、本件事業計画の根幹に牴触するものとして許されない。これを別の角度からいうと、原告は、大学用地にふさわしい約四万二〇〇〇坪の一区画の土地を求めて被告の定款及び変更前の事業計画に同意したものであつて、その被告組合に加わつた動機、求める利益においてその余の地権者と質的に異なるものであり(原告と他の地権者との間では、換地とされるべき土地の地積、位置等につき何を目して照応平等とみるかそれ自体なんら基準ももちえない。)、それ故にこそ、原告に対する換地については、予め事業計画にその地積、位置等に至るまで明示されるほかなく、被告においてその判断、裁量を許されるのは、事業計画の具体化の域を出ないものと解される。してみると、原告の意思、利益は、他の地権者により代表しうる限りでなく、その意味において総代会の決議をもつて原告のかような利益を剥奪することは許されないものといわなければならない。のみならず、右のような原告の特殊な地位は、前記認定にかかる本件事業遂行の経緯に照らして合理的に肯認できるものであつて、原告がもともと不当な利益を博していたものとみることはできない(仮に従前地について平均減歩率による減歩がなされることが当初から予定されていたとすれば、原告は本件地区内の土地を購入するにあたつて減歩を見込んだ地積の土地を予め取得することも可能であつたはずであるが、原告はそのような必要性を全く感じていなかつたことは容易に推認しうるところである。また、他の要素を度外視した場合、学校用地など街路等で細分されない大きな一区画の土地を換地として受ける者と住宅地の通例にしたがい縦横に十分設けられた街路に接する住宅用地を換地として受ける一般の地権者とがいずれも類似の減歩率の適用を受ける場合、前者(本件の場合、原告)が著しい不利益を被ることは、数理上明白である。)し、被告が、本件事業計画を変更するに至つた理由は、本件事業施行の前提事情に変更が生じたからではなく、単に、被告組合設立前から本件事業の施行に反対していた組合員や高減歩率に不満を抱く一部組合員らの不満(この問題点は、被告組合設立時に既存のもので、定款・事業計画により組合員らが容易に認識しえたものである。)を、原告の犠牲において解消するためであつたと評すべきであつて、それ自体合理的なものとはいい難い。そして、原告が本件事業計画の変更に同意しなかつたことは、前記認定のとおりである。

そうすると、被告の本件事業計画の変更は、少なくとも原告の意に反して、その所有地につき大幅な減歩を課す点において違法なものというべく、したがつて、右変更後の事業計画に基づく本件換地指定処分もまた、違法といわざるを得ない。

三以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、被告がなした本件仮換地指定処分は取り消されるべきものであるから、原告の本訴請求は理由があり、これを認容すべきである。よつて、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(高山晨 小池信行 深見玲子)

物件目録〈省略〉

図面第一葉ないし第四葉〈省略〉

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